週刊ベースボールの匂い 〜サービス開始に当たって〜
仕事柄、幾度となくB5版で製本された週刊ベースボールを束ねたバインダーを広げながら、ページを繰ることがある。この束ねられた1冊には、週刊ベースボールが8冊綴じられている。
週刊誌は年間約52冊刊行される。この50数冊は1人の人間が一度に持ち運びできる量ではない。週刊ベースボールのバインダーは、年間に7冊製本されることになる。
ページを繰りながら、いつも感じるのは、過去に取り上げられた特集、インタビュー記事、コラム、さらに表紙文字のロゴやタイトルなどの誌面構成の独自性である。時代的背景や状況に加えて、当時の私個人の記憶と追憶が鮮やかに甦る。週刊ベースボール編集部に長い間在籍していた私は、過去にも幾度となく、このバインダーのページを繰りながら、さらに過去へ遡ることがあった。
その都度記憶に残るのは、束ねられた誌面から漂う空気と「匂い」だった。古紙の如く劣化したページを繰る度にホコリっぽい煤けた残り香が鼻腔の中に漂う。
何度も同じことを繰り返していると、その誌面に点在する多くの文字にまつわる記憶が甦る。それは時間に追われながら、深夜に仕事を終えて、上司や同僚と繰り出した居酒屋の店内に立ち込めた煙草の煙の「臭い」だったり、当時、私が直面する課題とノルマ、また球界の大御所を怒らせてしまった失敗談や、様々な記憶が色あせた誌面の中から甦って来るのだ。
創刊から63年。通刊3700号を超える週刊ベースボールの誌面をデジタル化し、瞬時に検索できることが可能になったら、どんなに素晴らしいことか……と、いつも思い描いていた。この新たな事業は何としても成功させなければならないと、覚悟を持って臨んでも、私自身の鼻腔に内蔵された“検索機能”に変わる新たな機能が生まれて来るものだろうか。「アナログの守旧派」と切り捨てられてしまえば、それまでである。だが、私自身に生まれるであろう新たな進化と化学反応にも、期待してもらいたいものだ。